クリントン米国務長官は8月30日にアジア太平洋諸国歴訪に出発した。これはオバマ政権にとって、11月の大統領選挙前にこの地域で過熱している領有権争いに対処する最後のチャンスとなる。
アジアの島々、岩礁、海域をめぐる緊張が高まるなか、クリントン長官はインドネシア、東ティモール、ブルネイ、中国、ロシアなどの首脳と会談することになっている。
米国務省高官によると、クリントン長官の歴訪は、イラクやアフガニスタンからの撤退が進む米国がアジア太平洋地域の安定に強い関心を持っていることを強調するものだという。
オーストラリアの首都キャンベラにあるオーストラリア国防大学のアジア安全保障の専門家、カーライル・サイヤー氏はこう指摘する。「クリントン長官は多国間協議に出席し、貢献し、耳を傾け、(たとえばアジア全域に及ぶ支援プログラムなどを通じて)低姿勢で主導権を握ることで、米国がこの地域にとても実践的な方法でかかわっていくということを示している」
中国はあまり好ましく思っていないようだが、オバマ政権はこの1年間にこの地域における米国の影響力を強化してきた。オバマ大統領は昨年、米海兵隊がオーストラリアに駐留して定期的な演習や訓練を開始することを発表した。レオン・パネッタ米国防長官は今年6月、米海軍艦艇の6割をアジア太平洋地域に配置することを明らかにした。オバマ政権は主に北朝鮮に対する備えとして、アジアの米軍基地にミサイル防衛システムを構築することも求めている。
パネッタ長官は米国の目標と優先事項を重ねて強調するために近々この地域を再訪する予定だが、こうした取り組みが常に政権の求めている結果をもたらしているとは限らない。
中国政府はこの地域での干渉を強める米国を非難している。中国の政府高官や国営メディアは、米国が中国の影響力を抑制する手段として同国と近隣諸国との領土権争いを激化させようとしているとして抗議している。一方の米国は南シナ海の緊張をさらに高める可能性があるとして最近の中国の動きを批判している。
尖閣諸島の領有権をめぐる日本と中国の対立もいまだ緊張状態が続いている。ここのところ中国各地では反日運動が勃発しており、国営メディアはこのタイミングでのクリントン長官のアジア歴訪を疑問視している。
中国国営の新華社通信は8月29日にこう解説している。「クリントン長官の歴訪の目的は中国の拡大する影響力を抑制することにあるというのは事実だが、アジア太平洋地域における米国の支配的立場や主導権を守るというのがその戦略の核となっている」
クリントン長官が前回この地域を訪れたのは7月にカンボジアのプノンペンで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議に出席するためだったが、その時は意見が激しく対立し、話し合いは物別れに終わった。地域経済圏を構成する10カ国は、南シナ海での中国と複数のASEAN加盟国と領有権争いにどう対処すべきかで合意を形成することができなかったのだ。
フィリピンが加盟国の強い懸念を示す言葉を要求したのに対し、親中派のカンボジアがこれを拒否したため、加盟国は会議の最後に発表する共同声明の文言で妥結できなかった。共同声明の発表が見送られたのは45年に及ぶASEAN会議の歴史上初めてのことである。
アナリストによると、物別れに終わったプノンペンでの協議は、米国にとっても敗北を意味するという。というのも米国はASEANを、アジア地域で拡大する中国の影響力に対する統一戦線にしようとしてきたからである。
領有権争いはアジアの他の地域でも激しさを増している。韓国の李明博大統領の竹島訪問を受けて、日本は先月、同島をめぐる韓国との領有権問題を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する構えを示した。韓国では独島、米国やその他の地域ではリアンコート岩礁として知られる竹島をめぐる対立は長年にわたってくすぶり続けてきた。李明博大統領の竹島上陸後、日本はこれに抗議して駐韓大使を一時帰国させた。
日本には他国との問題も存在する。日本が実効支配している尖閣諸島に関しては中国と台湾も領有権を主張している。日本はまたロシアが実効支配している南クリル諸島(北方領土)の領有権も主張している。
先週、米国務省高官はワシントンDCでこう述べた。「今回の歴訪でわれわれが伝えようとしているのは、すべての関係国政府が冷静に対応し、こうした問題が慎重に議論され、複雑な領土問題がすでに数十年間存在してきたという事実を思い出すことがきわめて重要だというメッセージである。アジアの繁栄が最も目立ったのは、こうした問題が概して効果的に封じ込められてきた過去数十年間である」
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